舞姫

あなたは 美しく、美しくなった

仄暗い心の回廊に灯をともすため

生きるということの輝きが欲しかった

 少女というときに

夢の輪郭はとてもおぼろげなのに

その表情は

艶やかな彩にあふれている

万華鏡をのぞいたときのように

 めくるめく時の流れのなかで

ふと足を止めて振り返ってみると

衣擦れと残り香の佇まいが

セピア色にたたまれている

 人の世は包みようのない

不思議な形をしていて

人の心は忽ちに移ろい

解けない暗号がちりばめられている

季節を重ねて紡いだ糸を

心を込めて織り上げても

思い通りの模様はうかばない

  斜めにかざした手のひらに

冬の日差しが微笑みかけています

かんざしの朱の色に隠されたまなざしは

気づいていましたね

今という幻に映された心は

幾重にも重なって透明になるしかないことを

目を閉じてしまえば、その華やぎは

 たちまちに色褪せてしまうことを

 小さくたたまれた羽衣に

ほのかなぬくもりを残して

緑の風にいざなわれ

 折り鶴は空の青さへと翔立つ

見晴るかす都の佇まいと

人々の所作に別れを告げ

華やぎの約束事から解き放たれ

 孤独という同伴者に誘われながらも

あなたは

あなたとして明日へ翔び立つ

わたしとあなた

生命の途方もないつながりの果て

ふらりとこの世界に現れた私と”あなた”

いのちのふるまいに従いながら

はかりしれない瞬間を積み重ねて

物語をつむいできた

わかりあえるということを前提にしながら

わかりあえないことを共有するしかない

ふわふわとした手ざわりだけでつながる

私と”あなた”のたった一回の物語を

愛というからくりに引きずられながら

白神の森

この街の日常とすれ違うだけの旅人という私

コロナ禍の忍び寄る町並みには緩慢な時が刻まれて

賑わいを失った駅前広場が佇んでいた

路往く人々の肩越しにゆるゆるとした深まりゆく秋の日差しが

長い影を落としていた

この街を離れ、白神の森へと続く道沿いには、たわわな赤いリンゴの枝が連なり

秋の彩りにつつまれて

湖水に映る山並みは錦に飾られ、空は蒼く高い

枯れ葉が、森へといざなう林道に敷きつめられ、谷川の清流にも舞う

黄や紅に化粧された梢の間には、作りかけのジグソーパズルの様に

青空がちりばめられていた

山頂へ登る踏み跡には木の根が重なり、倒木が行く手をさえぎる

汗をふき息を整えて振り返ると

遥かな山々が秋の陽をいっぱいにあびて錦秋の装い

歩みを進める側には、春や夏に咲きほこって花々の面影が

枯れ葉におおわれ眠りについていた

しかし、ブナの森は紅葉の季節の訪れに素知らぬ顔

いまだ夏の装い

淡い黄色に染められたブナの秋は、幻想的な趣で

様々な日常をそぎ落としてくれた

あのブナの森の秋は… 

(まだ少し先のようでした)

よまい

 私たちという即興は

輪郭だけが踊る

一夜限りの影絵芝居

心の機微も後悔も

時の流れに塗り込められて

記憶というシルエット

神様の気まぐれに付き合わされ

人間という現れ方をした

私とあなた

生きたようにしか生きられなかった

うたかたの陽炎のごとく

  

通い路

朝日こぼれるいつもの小路

沙羅の花咲くその角に

「幸」という天秤の目盛りが刻まれ

通り過ぎるだけの私が計られる 

 偶然の積み重ねでしかない

私と云う神話が語られても

思い出にさえならない

  なりわいの軽さに

ふと振り返ってみれば

茫漠とした記憶の断片が

風に舞っているだけ

望月の宵に

 

表象と言葉のすきまは

心という宇宙

 その迷路の中で私は私でしかない

他者の中に在る私を受容することが

生きるということだから

表現というあやかしをとびこえて

軽やかに時を手繰り寄せる

 私という夢の世界に

月明かりの宵に折鶴は羽ばたく

約束事から解き放たれて

  ひらり、ひらりと

私という四辺形

数歩先さえ言い当てられない予言者の私

  

この世界を語ってみましょうか

可能性という魔法の道具を頼りに

抜き差しならない孤立と

断ち切れない夢の輪郭を

 生きるとは 瞬間を感じるという 

取り返しのつかなさを味わい続けることですから

どんなに思いを込めて綴っても

その ノートは虫食いだらけ

 生命にまとわりつく粘々しさと

妖しさの香る不思議なこの世界は

天真爛漫さを装いながら

語り続けるしかないのだろうか

 思い過ごしの冬から春への溜息は

街角に染み入るように夢散していく

路往きに似て、誰にも伝えられない心模様