いま 思うこと

ふと 思いだす 夜更けのコーヒーショップ

一号国道沿いの マスターひとりの 小さな店

身の置きどころのなかった学生時代

長い坂を下って 友と通ったその店で

通り過ぎるヘッドライトを数えながら

青春という

答えの出ないパズルを解いていた

 人影の消えた帰り路 見上げた星空は

私の困惑など素知らぬ顔で 

闇に浮かんでいた 

あの時から半世紀過ぎ  生きるということに

解答などありはしないことに気づかされた

 神様の気まぐれにつき合わされているだけだということに

  

いま

目を凝らせば 同じ世界が視えると 誰もが言うけれど

あなたと出会った瞬間に

世界が止まってしまったことをどう綴ればよいのでしょうか。

まっすぐな道を

ただ歩いているだけです 

なぜ迷うのでしょうか

わかったふりするしかない

仕草であふれている

この世界に生まれた 私とあなた

意味という暗号につつまれて

透明になるための

依り代をさがす日々

また…

考えても 考えても

たどりつけない 私と云う不可解

瞬間を綱渡りするしかないから

記憶の世界に身をゆだねる

ひと時の趣にからめとられ 

痕跡しか残せずに 

後戻りもスキップもできない

私と云う仮初

セピア色に編みなおされて

説明のできない情感の

羅列に包まれるしかないのだろうか

春の日

  

  春の日だった

あなたに出会ったのは 

あの時 いつものように

一つ手前の路地をたどっていれば

もうひとつの世界を生きていた

  あなたと出会ってからのことは 

たくさん語れるのだけれど

私は世界の半分しか視ていない  

   偶然を重ねて生きている この不思議さを

つづる方法はあるのだろうか

ふりかえれば

何故そうしたのか わかりはしない

けれど そうしたかった

しなければならなかった 

目的とか 希望とか

飾り立てる修辞がないと

みすぼらしい人生と 思ってしまう

おろかさを贈られてしまった

心をすませば 

生きることに理由などないのに

尾瀬は冬の

燧裏林道の木道には霜が被い、窪地には氷が張っている。

木道の上に冬支度の熊が落とし物、田代の山際を大きな角を揺らしながら雄鹿が疾走している。

尾瀬は冬の入り口

  

麓の林道を逍遥すれば、秋の装いをした木々が錦を飾り、森閑としたひと時に包まれる。

溶けていく図書館

 印字された線分は

紙のページから解き放たれた

ウエブにあふれた信号は書籍の形を変え

携える方法を変え

なによりも手触り感を変えた 

それは

図書館を溶かしていくに十分なインパクトだ

  そう 図書館は表情を変えた 

さりげなく訪れる

あなたにこそ相応しい

 ひと時のために訪れるあなたに

さて 今というとき

信じると云うことにしか

標がない世界に私たちは生きています 

気づいています

意味はどんなに緻密に組み立てても

たった一つのため息で宵闇に

吸い込まれてしまうことを

 それでも意味を積み重ねるしか

私を演じることはできないのです

  揺るぐことのない茫洋とした

あきらめの思いを培うのです

過ぎてしまえばすべて夢なのですから

想い

その小箱をのぞけば

あなたを見つめるあなたが居るだけ

あなたという例えようもない

不思議が

閉じ込められている

魔法の小箱

ぬくもりは記憶として たちまちに

言葉となって 押し込められ

浮遊する 肌ざわりは たしかめようもない

ひそやかなエピソードとして彩をうしなう

たわんでいる空間に羅列された物語は

いつの間にか魔法の小箱に印された

かすかな痕跡