まるい午後

 

ざわめきの去った閲覧室

ソファーでうたた寝をしている、

  忘れられたペンケース

ガラス越しの空は

校舎の壁に幾何学模様に切り取られ

その前を綿雲がのろのろと通り過ぎていく

 放課後の校舎は声をひそめ

だんだんと澱んでいく時が

切れ切れに積み重なって

ふぅっと心が浮かび上がりそうになり

      グラビアのインクの囁きだけが部屋に満ちていく

雨の夜空に星をさがして

公園通りの宵闇を思い出し、手を止める

書き連ねたばかりの本の名前からざわめきが聞こえた

数年も訪れていない町並みが思い浮かび

文字と線の隙間に街路灯の光がさしこむ

雨の夜空に星を探して歩いた

忘れていたはずのあの日のこと

君の所作の余韻がよびさました想い出

どうしてそうしたのかさえ風に消された記憶

ネオンはいまも虚ろげに歩道を撫で回しているのだろうか

 

君は…

手鏡

 

君の瞳は何を探しているの

そっととりだしたその手鏡のなかで

 

ぴあす

 

君のぴあすはささやいている

だれにも聞こえない小さな声で

おしえて欲しい ちょっと気になる君の変身

放課後の閲覧室


あなたひとりの閲覧室に

やわらかな夕日が射し込んで

窓がらすに楡の梢の影模様

やがて窓枠を乗り越え 

 

あなたの肩にまで届いた

でも、本が読み終わらない

夕闇がゆっくりと舞い降り

生徒らの声も途絶え

校庭も静けさに包まれた

それでも

本は読み終わらない

季節 とき

時はしなやかに描いていく、あなたと私を

一つ一つの思いが醸す世界は留まることもない

記憶された昨日はすでに無く、明日という輝きに費やされる

それは尽きてしまうことへの計らいでしかない、抗うことのできない

何者でもない私は、何者でもないあなたと、時を奏でる夢を見た

たった一つの確かなことを忘れようとして

 

 

はる

 

南からの風に誘われて

舞い散る花びらの

そのなかを足音が駆け抜けて

窓越しに見える君の後ろ姿

閲覧室の窓辺に、また、花が舞う

陽炎のように