あなたひとりの閲覧室に
やわらかな夕日が射し込んで
窓がらすに楡の梢の影模様
やがて窓枠を乗り越え
あなたの肩にまで届いた
でも、本が読み終わらない
夕闇がゆっくりと舞い降り
生徒らの声も途絶え
校庭も静けさに包まれた
それでも
本は読み終わらない
高校司書のひとりごと
やわらかな夕日が射し込んで
窓がらすに楡の梢の影模様
やがて窓枠を乗り越え
あなたの肩にまで届いた
でも、本が読み終わらない
夕闇がゆっくりと舞い降り
生徒らの声も途絶え
校庭も静けさに包まれた
それでも
本は読み終わらない
読み止しの
栞になりし
花ふぶき
去りゆく君の
髪にひとひら
時はしなやかに描いていく、あなたと私を
一つ一つの思いが醸す世界は留まることもない
記憶された昨日はすでに無く、明日という輝きに費やされる
それは尽きてしまうことへの計らいでしかない、抗うことのできない
何者でもない私は、何者でもないあなたと、時を奏でる夢を見た
たった一つの確かなことを忘れようとして
南からの風に誘われて
舞い散る花びらの
そのなかを足音が駆け抜けて
窓越しに見える君の後ろ姿
閲覧室の窓辺に、また、花が舞う
陽炎のように
楡の木陰の高校図書館
夏には涼しげな木漏れ日を、秋には澄んだ空に枯葉が舞い、冬には木枯らしに枝をしならせ、春には萌える若葉を芽吹く校庭の楡の木、その下の小さな図書館。
生徒たちは集い、様々な表情を
残して去っていく。それを視つづけた
司書のひとり言。
25年間綴ってきたものの中から
折々の想いを
……。