白神の森

この街の日常とすれ違うだけの旅人という私

コロナ禍の忍び寄る町並みには緩慢な時が刻まれて

賑わいを失った駅前広場が佇んでいた

路往く人々の肩越しにゆるゆるとした深まりゆく秋の日差しが

長い影を落としていた

この街を離れ、白神の森へと続く道沿いには、たわわな赤いリンゴの枝が連なり

秋の彩りにつつまれて

湖水に映る山並みは錦に飾られ、空は蒼く高い

枯れ葉が、森へといざなう林道に敷きつめられ、谷川の清流にも舞う

黄や紅に化粧された梢の間には、作りかけのジグソーパズルの様に

青空がちりばめられていた

山頂へ登る踏み跡には木の根が重なり、倒木が行く手をさえぎる

汗をふき息を整えて振り返ると

遥かな山々が秋の陽をいっぱいにあびて錦秋の装い

歩みを進める側には、春や夏に咲きほこって花々の面影が

枯れ葉におおわれ眠りについていた

しかし、ブナの森は紅葉の季節の訪れに素知らぬ顔

いまだ夏の装い

淡い黄色に染められたブナの秋は、幻想的な趣で

様々な日常をそぎ落としてくれた

あのブナの森の秋は… 

(まだ少し先のようでした)

よまい

 私たちという即興は

輪郭だけが踊る

一夜限りの影絵芝居

心の機微も後悔も

時の流れに塗り込められて

記憶というシルエット

神様の気まぐれに付き合わされ

人間という現れ方をした

私とあなた

生きたようにしか生きられなかった

うたかたの陽炎のごとく