ふとした微睡

 机に向かってキーボードを打つ指先に

よみがえった遠い日々の顚末を

それとなく飾り立て

 言葉巧みに語ってみたいのだけれど

忍び寄る季節の気配を眺めるだけの

萎えてしまった感情の私には為す術もない

  斜めに差し込む午後の日差しが

矩形の陽だまりをつくり

手持無沙汰な閲覧室が微睡んでいるとき

 硝子窓に映っているくねった机の列が

枠をはみだして初冬の空へと広がっていく

白神の山路

夏の名残の枝先に

 秋はひそかにやってきた

兆しは風に乗り

梢から梢へと染めていく

 ぶなの森に風が鳴り

空が小さく揺れている

落ち葉が転げる山路を

踏みしめる今という時

  ふと振り返る、君の気配に

あるわけもないのに