初冬の北風に襟を立て
長い影をひきずって
あぜ道を歩く
流れの絶えた川面に
枯れ葉が漂い
空は 青く 高い
来し方への想いにふける歩みに
静けさが私を包み
風に揺れる真っ赤なピラカンサス
高校司書のひとりごと
司書の嘆息
初冬の北風に襟を立て
長い影をひきずって
あぜ道を歩く
流れの絶えた川面に
枯れ葉が漂い
空は 青く 高い
来し方への想いにふける歩みに
静けさが私を包み
風に揺れる真っ赤なピラカンサス
猫たちは丸々として走るのをやめ
実をつけたことのない路際のレモンの木に
買い物籠の鶏と散歩する老婆の独り言
始業のチャイムのあとの静寂に
秋あかねが通り過ぎていく
私は何を迷っていたのだろう
複雑に思っていた迷路も通り過ぎてしまえば
一筋の道
偶然を繋ぎ合わせてみれば必然になるという仕組み
始まりがあれば終わりがあるだけのこと
それを、わからないふりをして通った
路地裏の日常
なにもわからない この世界
わかったことにして
百日紅咲く この夏を生きる
風の音色ですか 雨のつぶやきですか
共感という夢の輪郭は
呪術としての言葉で伝えられ
わかったことにしなければ
立ち尽くすしかない この世界
魔法をかけられた所作やふるまいは
言葉にすりかえられて
カフェのテーブルに並べられたけれど
なぞる暇もなく 夢の海に消えた
けや木並木 こもれびのショーウインドー
古びた店のマネキンの春色
道行く人をふりむかせたその色を
思い出す人もういない
ビルの谷間の空の下
小さな路地のカフェテラス
どんなに言葉を重ねても
推しはかるしかなかった あなたの心
伝えられなかった 私の思い
やわらかな春の陽は
思い出という言葉に閉じ込められ
たどりつけない あの時のときめき
ふと 思いだす 夜更けのコーヒーショップ
一号国道沿いの マスターひとりの 小さな店
身の置きどころのなかった学生時代
長い坂を下って 友と通ったその店で
通り過ぎるヘッドライトを数えながら
青春という
答えの出ないパズルを解いていた
人影の消えた帰り路 見上げた星空は
私の困惑など素知らぬ顔で
闇に浮かんでいた
あの時から半世紀過ぎ 生きるということに
解答などありはしないことに気づかされた
神様の気まぐれにつき合わされているだけだということに
目を凝らせば 同じ世界が視えると 誰もが言うけれど
あなたと出会った瞬間に
世界が止まってしまったことをどう綴ればよいのでしょうか。
まっすぐな道を
ただ歩いているだけです
なぜ迷うのでしょうか
わかったふりするしかない
仕草であふれている
この世界に生まれた 私とあなた
意味という暗号につつまれて
透明になるための
依り代をさがす日々
考えても 考えても
たどりつけない 私と云う不可解
瞬間を綱渡りするしかないから
記憶の世界に身をゆだねる
ひと時の趣にからめとられ
痕跡しか残せずに
後戻りもスキップもできない
私と云う仮初
セピア色に編みなおされて
説明のできない情感の
羅列に包まれるしかないのだろうか
春の日だった
あなたに出会ったのは
あの時 いつものように
一つ手前の路地をたどっていれば
もうひとつの世界を生きていた
あなたと出会ってからのことは
たくさん語れるのだけれど
私は世界の半分しか視ていない
偶然を重ねて生きている この不思議さを
つづる方法はあるのだろうか
何故そうしたのか わかりはしない
けれど そうしたかった
しなければならなかった
目的とか 希望とか
飾り立てる修辞がないと
みすぼらしい人生と 思ってしまう
おろかさを贈られてしまった
心をすませば
生きることに理由などないのに